私たちの大腸の中で暮らす腸内細菌を知って、 自分の暮らしを見つめなおそう
研究者インタビュー

辨野義己(べんの・よしみ)博士
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今回は辨野腸内フローラ研究所の理事長である辨野義己先生に腸活についてのお話しをお伺いします。辨野義己先生は、35年以上に亘り腸内環境と大腸疾患との関係を研究され、腸内常在菌のスペシャリストと して数多くの菌を命名・研究されてきました。また、病気のリスクを減らす微生物やそれらを含む食品が腸内環境の改善に有効であることを明らかにされました。腸内環境のコントールが健康寿命を延ばすことを各地の講演やメディア等で伝え続けておられます。
「いい腸内環境」とは?
--------本日はよろしくお願いいたします。最近では、健康管理に欠かせない存在として乳酸菌等様々な菌の名前をスーパーで見かけます。腸内細菌の詳細を聞く前に、まずは腸内環境と免疫の関係について教えていただけますか。
私たちの体には、外部から侵入してきた菌等を倒すしくみとして免疫があります。この免疫を担当する細胞の7割は腸にいて、それだけ腸の免疫機能は大事なんです。腸内細菌と免疫担当細胞の関わりが免疫機能を左右すると言われていて、2003年のSARSや2019年の新型コロナウイルスの時にも、感染症の重篤化と腸内環境の関係が大いに取り上げられました。乳酸菌を摂取すると重篤化を防ぎ、いい腸内環境を維持することで正常な免疫機能が働くことが明らかにされています。
--------いい腸内環境とはどのようなものなのでしょう?
腸に腸内細菌が棲んでいることは知っていますか?腸内細菌の営みによって腸内環境はいいか悪いかどちらかに偏ります。1980年代以降、遺伝子を使って細かく解析できるようになり、腸内細菌と大腸の病気との関係についての研究が進みました。ピロリ菌が有名で、感染すると潰瘍や胃がんが発症することがわかっています。最近では、腸内の細菌の状態が腸の病気だけでなく、腸以外の病気にも関わっていることがわかってきました。大腸がんは、腸内の常在菌が関わる慢性感染症が原因で進行することが明らかになっていますし腸内環境の乱れがうつや不安障害等の神経症とも関わっていると言われています。
そのため、いい腸内環境とは体にプラスの働きをする善玉菌等の腸内細菌が棲みやすく整えられている環境ということです。
あの「善玉菌・悪玉菌」は誰が名付けた?
-------善玉菌はテレビでもスーパーでもよく見かけるキーワードですね。
私はもともと獣医師になろうと思っていて、牛の乳房炎を引き起こす病原菌研究をしていて、大学院ではニワトリの呼吸器感染症と常在菌の関係に取り組む予定でした。しかし先生が異動するとのことで、その時に光岡知足(みつおか・ともたり)先生を紹介してもらいまして。光岡先生は、「ビフィズス菌の腸内活性」や「善玉菌と悪玉菌」の学説発表をした常在菌研究の先駆者的存在の方です。善玉菌・悪玉菌という言葉は光岡先生が生みの親で、1980年頃から徐々に世間に浸透していきました。腸内細菌にも3種類ありまして、善玉菌・悪玉菌・日和見菌は2対1対7の割合で腸の中で暮らしています。このバランスが崩れると悪玉菌が優勢となり、体に不調をもたらすことが知られています。
腸内環境は自分で整えられる
-------腸内のバランスを保つにはどうすればいいのですか?
食べものは考えて選んで腸に送り込むことができますから、ありがたいことに腸内環境はコントロールできるのです。昔に病気のデパートと言われていた部位が、今は全身の健康を促進できる部位という考え方になっています。腸内のバランスが崩れた場合、体のさまざまなところにサインが出ます。例えば、便。便は「たより(便り)」と書きますから、体の状態を教えてくれるお手紙みたいなものです。軟便や便秘で悩んでいる世代は多いのですが、日本人女性の約48%は便秘であるという研究があります。中には週末しか便を出さない人もいて、おもな原因は食生活の偏りや運動不足、ストレス、女性で多いのはダイエットです。過度なダイエットはやめて食生活毎日9000歩以上歩く程度の運動を心がけましょう。あとは人間関係でストレスをためないことも非常に大事。リラックスできるような趣味を楽しみ、笑顔で過ごすことも腸活にはおすすめです。食べものはもちろん大事ですが、あらゆる条件を加味して腸活することが大事です。
「食べる腸活」できていますか?
-------腸に送る食べものはどんなものがよいですか?
私は奄美大島や大分県の姫島等健康寿命が長い島の調査をしたことがあります。これらの地域の共通点は、野菜中心の食生活であることです。こういうライフスタイルの方の便からは「酪酸産生菌」が多く検出されます。これは食物繊維から「酪酸」をつくる菌です。酪酸は、腸の健康サポートや免疫調整が得意な物質で、がん細胞の抑制等腸管機能の向上につながります。どんな便を作るのか?どんな腸内細菌をもつのか?という2つの問いを常に意識して食生活を送ることが健康寿命の決定につながります。有用菌であるビフィズス菌はいろんな加工品として売られていますから、それを口から入れる。そして酪酸産生菌を、たっぷりの食物繊維をとることで腸内に維持させる、これが大事です。日本の厚生労働省は一日あたり野菜350gの摂取を推奨していますが、ほとんどの方は達成することができていません。意識しないと採れない量なのです。
-------いい腸内環境を維持すると体にどんな変化がありますか?
実は腸では「セロトニン」というホルモンが90%も作られています。同様に脳でも作られていてこれはたったの2%程度ですが、神経伝達物質のひとつですから情緒を安定させ意欲を高めることが知られています。腸で作られる「セロトニン」は、腸でしか働かないので、脳のセロトニンと効果は違いますが、腸をよりよく働かせてくれてくれるというプラスの効果があることは脳と同じだと言えます。いい腸内環境を維持することで、ホルモンレベルでも良い環境づくりが進み、太りにくくなり集中力もアップする等いいことがたくさんあります。
-------EOSでは「腸活ジュレ」を扱っていて大変好評です。先生から見た「腸活ジュレ」の良さは?
先ほども話した通り、野菜を350g食べることはとても大変です。もっと手軽に食物繊維が取れたらいいな、を実現したのがこの腸活ジュレなのです。これはコンニャク芋から抽出されるグルコマンナンという水溶性食物繊維を独自の特許技術によって高濃度に含有させたジェル状のコンニャクです。大便の量の増加、便通の改善等が期待できます。ぜひ一度試してください。
Profile
辨野義己(べんの・よしみ)国立研究開発法人理化学研究所
【名誉研究員】
/日本微生物資源学会【名誉会員】
1948年8月28日 大阪生まれ
酪農学園大学獣医学部卒
東京農工大学大学院獣医学専攻科を経て、理化学研究所に入所。
同所バイオリソースセンター微生物材料開発室(JCM)室長。
2009年、理化学研究所を定年退職後、企業からの研究資金提供により同所特別招聘研究員として科技ハブ産連本部辨野特別研究室を主催。
2021年3月末退職後、現在に至る。
農学博士(東京大学)